【パートナー紹介 #1 前編】大石桂誉

Si Partners Networkに集まっている、独特の個性とスキルを持った人たちにフォーカスを当てたインタビュー企画を始めます。
初回はサウンドエンジニア、プログラマーの大石桂誉さんにお話を伺いました。

左側が大石、右側が森田(インタビュアー)

3DCG制作からコンピュータの面白さに目覚めた

ー 大石さんといえばMaxやAbleton liveを使ったライブパフォーマンスやフィールドレコーディングなど、音系の制作が多い印象ですが、子供の頃はどんなことをやっていたんですか?

小学生の頃から家にゲーム機(PlayStation)とコンピュータがあって、親に買ってもらったWACOMのペンタブでイラストを描いていました。中学の同級生に3DCGをやっていた友人がいて、そこから3DCGも作るようになります。
まだまだコンピュータの性能が低い頃なので当然レンダリングなどにもとても時間がかかるんですが、そこで面白さに目覚めて「もっとコンピュータに触れたい」と思い、浜松工業高等学校の情報技術科に進学しました。
ただ、情報技術科というのはコンピュータにつかわれている技術、つまり電気回路やプログラミングなどの仕組みや作り方を学ぶところなので、ツールとしてのソフトウェアを使って何かする学科ではなかったんです。
なので「思ってたのと違うぞ?」と思いながら、授業をこなしていました。

音楽にハマったきっかけは「DJMAX」

ー 音楽自体とはどういう接し方だったんですか?

昔は音楽の授業が嫌いでしたね。鍵盤ハーモニカやリコーダーも苦手でした。
浜松出身なのもあってかクラスにものすごく上手い人が何人もいて、近所にピアノを持っている人も多かったですが、自分の家は特にそういうこともなく。合唱は例外で楽しかったです。よく隣の上手い人の歌い方を真似していました。

自分から音楽を聴きはじめたのは高校の時です。
最初はニコニコ動画に上がっている作業用BGMを流すところから始まって、あと周りに音楽ゲーム好きの友人がいたので「DJMAX」というゲームをやってました。

DJMAXプレイ画像
DJMAX RESPECT Vのプレイ画面(STEAMから引用)

元々テレビ番組を見たりゲームを遊んでて好みな曲が流れたときに、「こういう雰囲気の曲はどうやったら見つけられるんだろう?」と思っていたんですが、音ゲーをやることでようやく「トランス」とか、音楽ジャンル名とこれまで聞いてきたものが結びついて。
そこから更にニコニコ動画で検索して、色々プレイリストやニッチなものに巡り合いました。「ミニマルテクノ」ってなんだ?と調べたところからスティーブ・ライヒを知ったり。ZABADAKを知ったのもこの頃です。
そうやってのめり込んでいって、自分でCDを買うようになりました。
今では段ボール4箱くらい持っていて、中には150枚限定のAlva NotoのCDなど希少なものもあります。

ー ちなみに初めて買ったCDはなんですか?

レンタルCD屋では見かけないZABADAKのCD「20th」ですね。

ZABADAK「20th」
ZABADAK「20th」(Amazonから引用)

予想外の出来事からMax/MSPを始める

ー そこから中京大学のメディア工学科に進学するんですよね。これはどういうきっかけからですか?

高校と違ってもう少しマルチメディアなことができて、かつ高校で学んだようなことでも一応潰しがきくような、メディア系の学部を探していたら中京大学のメディア工学科が見つかって。その当時のメディア工学科には「造形基礎」というデッサンや映像制作の基礎を学べる授業もあったので、「こういうことがやれるのなら」と目指しました。

入学してからは割とのびのびとやっていました。
美術部に所属して、CGソフトでいわゆる「ジェネラティブアート」を作っては大判プリンタで出力して、展示をしたり。

(大石さん提供)

大学自体にも24時間入れるので、深夜に残っているゼミの先輩とカップ麺を食べながら作品の話をしたり。どちらかと言えば同期よりも先輩後輩と行動する方が多くて、一緒に展示を見に行ったりもしました。自分はカール・ストーン先生のゼミ(後述)に所属してましたが、他のゼミとも交流があって、幸村真佐男先生たちと三鷹天命反転住宅に行ったりもしました。

ー 大石さんのやりたいこととやってきたことがちょうどよく混ざっていますね。カール・ストーンゼミを選んだのはどういう理由ですか?

大学2年の終わりにゼミを選択することになったんですが、そこで人気が高くて抽選のカール・ストーンゼミを第一希望にしたら、なんと通ってしまって。
元々入れると思って希望を出したわけではなかったので、さて困ったぞ、このタイミングで勉強しておかないと後々ダメになるんじゃないか?と思ってひたすらMax/MSP(音楽・マルチメディア向けのビジュアルプログラミング言語)を勉強しました。

ー カール・ストーンさんに師事したくて選んだのだと思っていました(笑)。カール・ストーンゼミではどんなことをやるんですか?

最初の頃はPro Tools(音楽制作ソフト)の使い方を習ったり、先行作品やドキュメンタリービデオを観たりしていました。
例えば5.1chのスタジオで効果音だけを鑑賞するために、センターのスピーカーをミュートにした状態で映画「アルマゲドン」を観ました。
ドキュメンタリーだと、作曲家のフィリップ・グラスやジョン・ケージ、トイピアニストのマーガレット・レン・タン、音楽プロデューサー/エンジニアのトム・ダウド、後はmoog(シンセサイザー)のドキュメンタリーが記憶に残っています。
日本人の登場するものとしては、コーネリアスやテイ・トウワなどが登場する「AUDIOVISUALJAPAN」も見ました。
元々あまり家で音楽が流れているわけでもなかったので触れたことのないものが多く、とても面白かったです。

ー ゼミの課題はどんなものが出されるんですか?

3年生の課題は「一人ずつフィールドレコーディングを取り入れた曲を製作して、それをまとめた1枚のCDアルバムを作る」でしたね。録音機を渡されて「これで音を録ってきて曲を作りなさい」と言われました。
「World Listening Day」というイベントでも曲を作って、ゼミのイベントサイトで発表しました。
「フィールドレコーディングして素材を集めて、そこからどう切り出すのか」という技術は、この時にある程度自力で獲得しました。

ポスターとイベントサイト画像
作品発表会のポスターも大石さんが制作している(画像左側)

「ray.sniff~」=ウェブ空間上でのフィールドレコーディング

ー なるほど。そして中京大で最終学年に進むわけですね。
卒業作品について伺いたいんですが、まず「ray.sniff~」を発想したきっかけは?
「ray.sniff~」とは

プログラミング言語Max用の自作モジュール。ネットワーク通信データを直接的に音声データに変換する。
圧倒的に遅い音声処理と速いネットワーク通信処理の間でマルチスレッドな仕組みを組んでおり、リアルタイムで動作する。
Wireshark(https://www.wireshark.org/) や tcpdump(https://www.tcpdump.org/) で利用されている libPcap を利用しており、Ethernet で送受信するほぼ全てのデータを音へ変換できる。また、tcpdump と同様の方法で音に変換するパケットの絞り込みができる。

「ray.sniff~」の前に、先輩たちと一緒に展示をしたことがありまして。
その時の作品はWebカメラで映像を撮って、撮った範囲から検出された色をスペクトルに変換して、そこに音をマッピングして鳴らす、というものでした。つまり、ここでは「映像を音に変換する」ということをやったんですね。

「ray.sniff~」では日頃ニコニコ動画を見たり、ウェブ空間に滞在する時間が長いので「ウェブ上の空間に流れているものを音に変換することができれば、ウェブサーフィンをしてるだけで曲ができるのでは?」と考えたところからスタートしました。
実空間で流れている水や空気にあたる「データ」の動きを録音することができたら、それはウェブ空間上でフィールドレコーディングをしていると言えるのではないか、じゃあ録音をするために必要な「マイク」を作ろう。つまりウェブ空間上のデータを録音できる「マイク」が「ray.sniff~」です。

「ray.sniff~」を介して送受信したデータが音に変換される様子

元々自分は楽器だったり、SC-88Pro(ローランドのDTM用音源モジュール)だったり音源となるものを持っていなかったので、何かしら音源となるものを録ってきて加工するしかなく、音楽を制作する上でまずどうやって音源を手に入れるか、に昔も今も興味があります。

ー これはとても面白いですね!
私は逆にピアノ演奏だったり、作曲して人に演奏してもらったり、最初から自分の音を持っているタイプだったので、大学の時にあまりフィールドレコーディングの面白さを見出せなかったんですが、大石さんがそこに価値を見出した、ということにはとても納得しました。

そういう意味では、在籍している場所がメディア工学科なのであんまり楽器を弾ける人もいないですし、楽器があるわけでもなかったので、何かしらで音源を買ったり手に入れる必要がありました。やっぱり環境の影響は大きかったです。
「ray.sniff~」を作る上で、自分が工業高校出身でC言語が書けたこともとても大きかったと思います。結果的に過去にやってきたことがうまくはまってくれたので、よかったです。

ー なるほど。次回の後編では、情報科学芸術大学院[IAMAS]入学後の作品や、現在考えていることについて伺います。
どうぞお楽しみに!

大石桂誉

1990年生まれ。
中京大学情報理工学部 情報メディア工学科卒業。
情報科学芸術大学院大学[IAMAS]メディア表現専攻修了。
大学・大学院を通して、プログラミング言語Max用のオブジェクト「ray.sniff~」および、これを応用したTwitter経由で世界中の誰でもがリアルタイムに演奏に参加できるシステムを製作。
IAMAS修了後、同大学非常勤専門職に就任。IAMASメディアサイト研究会にて「trans-floor!」を制作。
他、leico名義でMax for Liveデバイスの製作を行い、2019年には日本初となるMax for Live本を自費出版した。
またd&b Audiotechnik主催の音響ワークショップにも参加し、音響設計やシミュレーションについて学ぶ。実際にIAMAS関連のイベントで音響シミュレーションを元にマルチチャンネル音響システムの設置、設定、PAを担当。

leico.github.io/TechnicalNote/

  

インタビュアー・編集:森田 了 撮影:大和 比呂志

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インタビュー

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