【パートナー紹介 #1 後編】大石桂誉
Si Partners Networkに集まっている、独特の個性とスキルを持った人たちにフォーカスを当てたインタビュー企画を始めました。
初回の前編ではサウンドエンジニア、プログラマーの大石桂誉さんの音楽との出会いや、大学時代の作品について伺いました。
後編では大学院から現在に至るまでの取り組みや、趣味についてお送りします!
(前編はこちら)
IAMAS入学の経緯と修士作品「Web Oscillation」
ー その後、情報科学芸術大学院大学(以後IAMAS)に進学するわけですが、IAMASはどういうきっかけで知ったんですか?
どこか大学院に進もうかな?と思っていた時にカールさんとカールゼミの先輩に「大石くんは…IAMASかなぁ」と言われたので、どんなところか卒展を見にいったら確かにIAMASかもな、と思いまして。
情報科学芸術大学院大学[IAMAS]とは
情報科学芸術大学院大学[IAMAS]は、科学的知性と芸術的感性の融合を目指した学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、未来社会の新しいあり方を創造的に開拓する「高度な表現者」を養成するとともに、学術文化の向上及び地域の振興に寄与することを目的に、岐阜県が2001年に開学した大学院大学です。
(IAMAS概要から引用)
ー それで無事に入学したんですね。大石さんは12期なので入学した時は旧校舎ですよね?
そうですね、僕はIAMASで1年生を2回やっているので3年間学生をやったんですが、2回目の1年生までは旧校舎で過ごしていました。
ー 1年生を2回やるというのはあまり聞かないと思うのですが、なぜそうなったんでしょう?
IAMASは入学してすぐ「モチーフワーク」という数日かけて行う実習授業があるんですが、まずそれに参加できなかったんですね。
初日の朝、目が覚めたら38.5度の熱が出ていて。病院に行ったらインフルエンザだったので1日も参加できず。結局その年のモチーフワークは日を追うごとにインフルエンザで人が倒れていき、最終日には最初の半分の人数になっていたと聞きました。
モチーフワーク自体の単位はレポートを提出することで無事に取れたんですが、とてもIAMASらしい醍醐味がある授業なので、参加できなかったことが心残りで。その中で年次制作が思うように進まず、これは無理だなと思ったので、もう一度1年生をやることにしました。
ー IAMASで制作した修士作品「Web Oscillation」は「ray.sniff~」から派生しているそうですが、これはどのように接続しているんでしょうか?
「Web Oscillation」とは
ray.sniff~ から派生したプロジェクト。
Twitterアカウントさえあれば世界中の誰でもが演奏に参加できるシステム。
Twitterでツイートするだけなので、演奏に参加するために専用のアプリをインストールする必要もなく、演奏会場から離れた場所からでも簡単に参加できる。
中京大でも「ray.sniff~」で論文を書いたんですが、その時の結論では「ウェブは音源となりうる」という言葉で締め括ったんですね。これは「ray.sniff~」、つまりマイクについての論文だったので、修士論文ではマイクの『使い方』について扱い「コミュニーケーションは音源となりうる」という言葉で締め括りました。
経験を元にした「音響ワークショップ」の主催
ー 大石さんにはIAMAS学内で開催された「音響ワークショップ」でもお世話になりました。これは何をきっかけに始めたんですか?
元々IAMASで使用していた古いd&b audiotechnik(以下d&b)のスピーカを交換することになり、新しいものを選定する必要がでたことがきっかけです。
まずはメーカーさんに話を伺ったりするために出張で「ライブイベント産業展」に行ったんです。そこでd&bの方に話しかけたらd&bが主催しているワークショップを教えていただいて。音響の基礎から大きなライブ会場とかで見るようなラインアレイスピーカの設置の仕方までみっちり叩き込まれました。
時には僕が3人くらい入れそうな大きさのスピーカが出てきたり、切り替え間違えるととんでもない爆音が出てしまうつまみをカチッ、カチッ、と切り替えながらビクビクしたり、貴重な経験でした。d&bの方のお話で記憶に残っているものの一つは「室内でも屋外でも我々が戦うべき相手は反響だ。室内の場合はリバーブと、屋外の場合は苦情と戦う必要がある。」というものですね。
ここで学んだことや、選定をした体験の資料を作っているうちに、これは絶対に面白いと思う人がいるだろうし、こう言う機会がなければ音響の話は中々知ることができないだろうと思ったので、引継ぎも兼ねてワークショップもやるようになったんです。
ー そうだったんですね!新しいスピーカーの選定は大変でしたか?
最終的にMeyer Soundのスピーカとd&bのものとを比較することになったんです。
その時に、まずMeyer Soundの方にMeyer Soundのスピーカをセッティングして測定用マイクで音響を整えていただいて、その音とまったく同じように聞こえるように自力でd&bのスピーカを設置したんです。
結果d&bのスピーカを購入することにしましたが、新しいスピーカはシステムが完全にデジタル制御で、ただ音を大きくして出力する以外にも様々な機能がついていて操作方法が複雑だったんです。これは他の人に引き継げる資料を作らなくては、と思ってd&bのワークショップで教わったことや、自力でスピーカを設置した時の体験を資料としてまとめました。
ー 私自身、音楽を専門に学んでいたものの、ホールとかは使わせていただくだけでまったく音響のことは知らないままだったので、とても面白かったです。実際にスピーカを設置して特定の音域が強く出ている部分を調整して削ったり、大石さんお手製の板を使って音の反響や吸収を確かめたり。
あの板は僕がd&bで受けたワークショップで出てきたものを再現できないかと思って作ったんです。
音の性質を理解するために使ったバネは日本では手に入れられず海外から輸入しました。
消えてしまう情報を守りたい
ー 大石さんの現在の活動としてはもう一つ「Technical Note」があると思うんですが、これはいつから始めたんですか?
「Technical Note」とは
調べた内容をまとめるWikiのようなページが必要になり作成されたWebサイト。
参照していたWebページが消失することを度々経験した大石がその保存のため、参照先で利用したものはなるべくそのままの形で引用して記述している。大石が調査して実際にやったことのある内容が大体まとまっている。
MabBookを2016年に買い換えてからです。
元々自分だけのノートや記録を撮るのにtiddlywiki というサービスを使っていましたが、qiitaやgithubを積極的に使うようになって「これはgithub pagesに移植できるのでは?」と思ったのがきっかけの一つです。
なのでいくつかの記事は2016年以前に書いたものを移植しました。
ー 以前作った経緯を伺った時には「ウェブ上にしかない開発系の情報など大切な情報が時々消えてしまうことがあるので、消える前に書き写している」とのことでしたが、これはやはり実際痛い体験があったんですか?
直接のきっかけが何だったかはもう覚えていないんですが、消えて辿り着けなくなった時のショックは今でも覚えています。
後はよくあると思いますが、並行して作業をやっていると、作業中に閃いたことを忘れてしまったり。後で見ようとブラウザのタブを開いていくといつの間にか大量になってしまったり。大量になったタブを整理するためにブックマークに保存しておいて、後から見にいったら消えていたり。消えてしまって慌ててWayback Machineに見にいったり。時々見るページを毎回検索するのが面倒だったり。
そういうあれこれが重なって、手元に書き写したり、その中で得たものをまとめたりする場所が「Technical Note」です。
最近ではMaxforLiveのTipsを集めた書籍版の「Technical Note」を制作している最中に、Ableton社のページから情報が消えていることに気付きました。あれは写しておいてよかったー!となりました。
こういう開発する上で重要な説明文が消えてしまったりするので、まるごと引用した上でURLを併記して、さらに自分でまとめています。
ー それが最終的にアーカイブとして人の役にも立ち、さらに一部が書籍として出版されることになったと。
エゴサすると引っかかるので、自作キーボードやキーボードのカスタマイズについてまとめたものや、MacがUSBを認識しない問題も時々参照されているみたいです。
IAMASの人にも「大石さんの記事めっちゃ検索でヒットします」と言われたことがありますね。
ー 確かにニッチな内容を検索するとIAMAS関係者のサイトやqiitaがヒットする現象、ありますね。
まだまだ書ききれてないネタもあるんですけど、種類も多岐に渡ってますし、必要な部分を画像なども含めてすべて引用して、ちゃんと出典を明記して、とやるので時間がかかってしまうんですよね。
現状でもmarkdownで書けるように作ったのでストレスは少ないですが、もう少し早く書けるようにならないかな、とは思っています。以前使っていたwikiの記法よりは楽なんですけど。
ー 今後にご期待!ですね!
趣味は工作!なんでもハンドメイド!
ー最後にちょっと別の角度から。大石さんは木工や革細工だったり、キーボードを自作したりと、音楽以外でもかなり多趣味ですが、これはいつ頃から作り始めたんでしょう?
木工とか革細工とかは職員になってからですね。
ある程度材料が買えるだけのお金と、材料を運ぶための車と電動ドライバーが手に入ったことで制作できるようになって。
ー今はほとんどの家具が自作ですよね。ベッドと本棚、棚、プリンター台、机…革細工も同じ理由で?
革細工も基本的には「バッグが高い」と思ったところから始まりましたね。
IAMASの工房にレーザーカッターがあったので、自分で図面を引いて加工してました。
ー 一方でこっちのバッグはすべて手作業ですよね?
そうですね。端切れなので穴を開けるところから一つ一つ手作業でした。
正直完成した時にはもう二度とやるか、ってなりましたね。
編集後記
音楽に限らず、収集した情報を自らの手法で保存し、束ね、新しいものを産み出す大石さん。
その一貫した姿勢が、作品や人柄に強く反映されていることを感じました。
幅広い興味対象とスキルを持つため、その中から厳選してお届けしましたが、大石さんの作品の一部はこちらにも掲載しております。
ぜひご覧ください。
大石桂誉
1990年生まれ。
中京大学情報理工学部 情報メディア工学科卒業。
情報科学芸術大学院大学[IAMAS]メディア表現専攻修了。
大学・大学院を通して、プログラミング言語Max用のオブジェクト「ray.sniff~」および、これを応用したTwitter経由で世界中の誰でもがリアルタイムに演奏に参加できるシステムを製作。
IAMAS修了後、同大学非常勤専門職に就任。IAMASメディアサイト研究会にて「trans-floor!」を制作。
他、leico名義でMax for Liveデバイスの製作を行い、2019年には日本初となるMax for Live本を自費出版した。
またd&b Audiotechnik主催の音響ワークショップにも参加し、音響設計やシミュレーションについて学ぶ。実際にIAMAS関連のイベントで音響シミュレーションを元にマルチチャンネル音響システムの設置、設定、PAを担当。
インタビュアー・編集:森田 了、えんひろ 撮影:大和 比呂志